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79話.蒸気自動車のスピード記録〔後編〕

《 主な登場人物 》
■レオン・セルポレ:1858年生まれ。蒸気自動車の改良に努めるフランス人技術者。
■クリエージェ:1865年頃の生まれ。電気自動車の普及に向かって活躍するフランス人。
■アメデ・ボレー二世:1867年生まれ。ガソリンエンジン車へ転向するフランス人技術者。


 電気自動車タクシーで名を上げた“クリエージェ”は、長距離ドライブを成功させた 


19世紀末のパリに登場した電気自動車タクシーは、“電気馬車”の名のもとに人気が上がってきた。
パリで営業している数多くの辻馬車会社の経営者たちは、電気馬車の走行コストが辻馬車の半分しかかからない点を知ったことで、この採用を考えるようになった。

この頃のパリでいちばん注目を集めた電気馬車メーカーは、クリエージェという技術者が創業したクリエージェ社であった。
この会社の電気馬車の評価は高く、フランスだけでなく外国からも、取り扱いや技術ライセンス取得を希望する会社が相次いだ。


こうして20世紀初頭のフランスで高い人気を誇った電気馬車であるが、クリエージェ社長は自車の欠点を良く知っており、補助動力としてガソリンエンジンを使うことを考えていて、いくつかの試作車をつくってみた。
いずれも満足できる水準に到達できなかったので、ガソリンエンジンとの組み合わせは諦めた。
その代わりに、電気馬車が単なるタウンカーでないことを示そうとして、長距離ドライブに耐えるクルマづくりにエネルギーを集中した。


1905年夏、クリエージェ電気馬車は、パリを出発してセーヌ湾に面しているセーヌ河口の町ドーヴィルまで行って、パリに戻るという全長338キロの往復ドライブに挑戦することになった。

朝5時にパリを出発して、中間点の町エヴルーに着き、ここで3時間充電した後、11時に再スタートしドーヴィルに到着した。
ちょうど昼時なので、クルマはたっぷり電気を溜め込むと同時に、クリエージェ自身もゆっくり昼食をとった。

3時間の昼休みの後、今度は往路と同じ道を使ってパリに向かって走り始め、再びエヴルーで充電して、パリに到着したのは夜の9時半であった。
朝5時から16時間30分という時間がかかったが、実走行時間は7時間30分で、充電時間は実に9時間という長さになったものの、充電時間を除く全行程の平均時速は45キロというから、かなりのスピードで走破したことになる。


この頃から、パリではガソリンエンジン車をタクシーとして使う業者が増えてきて、電気馬車の時代は終わりつつあった。
これを強く実感したクリエージェは新しい技術開発にチャレンジして、1908年にはガスタービン電気自動車のパテントを取得した。
この実用化に向かって努力を重ねることになったが、まさに燃え尽きんとするろうそくの最後の輝きに似て、とうとう1909年に、クリエージェ社は全ての電気自動車の生産を終了した。



 自転車レースと同じ名前をもつ“ツール・ド・フランス”自動車レースに注目が集まった 


20世紀の幕が開いて5年が経った頃、フランスでもっとも注目を集めていた自動車レースは、フランス国内を2千キロ以上にわたって周回するツール・ド・フランスというレースで、パリの新聞社ル・マタン紙が主催した。
このレースのために、ボレー二世は最高時速90キロに達する〈ボレー/新型トルピヨール〉という先進技術満載のレース専用ガソリンエンジン車を設計した。
このクルマは、ツインキャブレター仕様のエンジンをリヤに搭載し、スチール製シャシーと横置きリーフスプリングを使用した前輪独立懸架が採用されていた。
ボディはアルミニウム製で、上面だけでなく下面もなだらかになっていて空気抵抗を少なくするという工夫がしてあった。


このクルマの目標はツール・ド・フランスでの優勝であったが、急ごしらえで準備がゆきとどかなかったことに加え、レース途中でキャブレターがほこりを吸い込んでイグニションのタイミングが狂ってしまい、途中でリタイヤする羽目になって、優勝は夢で終わった。

完走を信じていただけに、このレースでの失敗はボレー二世にとっては大きなショックとなり、以降自動車レースに興味を示すことはなくなり、豪華仕様の高級車づくりに転じることになった。

1907年に〈ボレー/Eタイプ〉という高級車が誕生した。
このクルマはイギリス製の〈ロールス・ロイス/シルバーゴースト〉と比べると、価格は同等でありながら、ボレー二世の発明である油圧タペット(バルブを持ち上げる油圧式リフターのこと)が採用されるなど、技術的にははるかに先進的であったが、市場での評価を確立するまでには至らなかったようだ。

(〔79話〕はここまでで、〔80話〕は来週の火曜日に掲載。)


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