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94話.シカゴでの仲間割れ〔後編〕

《 主な登場人物 》
■エドウィン・トーマス:1850年生まれ。バッファローに本社を置くトーマス社の社長。
■モンティ・ロパーツ:1877年頃の生まれ。トーマスチームのアメリカ人リーダー。
■プービュ・サン-シャフレ:1875年頃の生まれ。高慢なド・ディオンチームのリーダー。
■ハンス・ハンセン:1877年頃の生まれ。サン-シャフレのやり方に疑問を持つ探検家。
■ケッペン中尉:1878年頃の生まれ。プロトスチームのリーダーとなったドイツ軍人。


ド・ディオンチームのH.ハンセンはリーダーと喧嘩してトーマスチームに乗り換えた


シカゴ入リしたのはトーマスチームが最初であった。
長旅の疲れをいやすべくホテルで一泊して、翌朝出発の準備をしているところに、ド・ディオンチームがやってきた。

トーマスチームのリーダーであるモンティ・ロバーツは、ド・ディオンチームのリーダーのプービュ・サン-シャフレにねぎらいの言葉をかけたところ、サン-シャフレは無視して玄関に入ろうとした。
これを見ていたド・ディオンチームのナビゲーターをやっているノルウェー人のハンス・ハンセンは、サン-シャフレをなじった。


Roberts,Montague第二巻094話
〈リーダーのモンタギュー(モンティ)・ロバーツ〉





「なんだ今の態度は。戦友に対して失礼ではないか」

「レースという戦場では戦友というものはないんだ。敵とは話をする必要はない」と、シャフレは反論した。

「いつもお前はそうだ。自分がいちばん偉いと思って、他人を馬鹿にしている」

「お前とは何だ。俺はお前のリーダーだぞ。リーダーに対して失礼な言動は許さんぞ」と、サン-シャフレはいきりたった。
この間に入ったのは、挨拶をかけたロバーツだ。
「例えライバルであっても、人間性を失わないのが、スポーツマンシップではないのか」

「俺は、このレースをスポーツだと思ってない。これは戦争だ」と、再びシャフレがはき捨てるように口走った。

これを聞いたノルウェー人は声を荒げた。
「このレースが戦争なら、自分は降りる。スポーツだと思ってこれまでやってきたが、お前のようなフランス人とは、もう一時も一緒にいたくない。これまで、どれぐらいお前の尊大な態度に我慢してきたか。忍耐にも限界があることを、知っといた方がいいぞ」

こういって、クルマから私物を取り出し始めた。この行動を横目で見ていたシャフレは、「勝手にしろ」と捨てぜりふを残して、足早にホテルに入ってしまった。

ロバーツは、ノルウェー人の所に歩み寄った。
「僕の一言が君たちの関係を壊してしまったかもしれなかった。たいへん申し訳ない」

「ロバーツさん。自分はニューヨークから今日までの14日間、どれだけシャフレにがまんを重ねてきたか。あいつは高慢ちきで、メンバー全員を馬鹿にしていて虫が好かん。あんな奴とは、こんりんざい話をするもんかと思っていたのです。今日の口論はきっかけに過ぎないので、あなたの責任ではありません。自分はすっきりしたと喜んでいるのです」

「ところで、ここでクルマを降りてどうするつもりですか」

「ここはシカゴなので、船を乗り継いで国に帰ろうかと思っているのですが」

「それなら、うちのチームに加わりませんか。ここからサンフランシスコまで行くと、その次はアラスカ、そしてベーリング海峡が待っています。わがチームはアメリカ国内は得意ですが、この国を出ると事情に明るい者がいないので、あなたがチームの一員に加わってくれると、鬼に金棒です。ぜひお願いします」

ことの思わぬ進展に戸惑いながらも、ロバーツの誠実な人柄に感激をしたハンセンの右手が思わず前に差し出された。
「それではロバーツさん。お世話になりますが、よろしくお願いします」

「こちらこそ」と、2人は固い握手を重ねるのであった。


Hansen,Hans第二巻094話
〈正義感が強いハンス・ハンセン〉





こうして、トーマスチームは新しいメンバーを加えてホテルを後にしたが、この日はツーストチームもシカゴに到着した。
プロトスチームとモトプロクチームがよたよたしながらシカゴに到着したのは、その2日後のことであった。

ニューヨークからシカゴまで、実に1,350キロを走破したことになるが、これだけでもたいへんな旅行であったが、ここから先はその10倍の距離が待ち受けているので、ニューヨーク~パリ間超々長距離レースは始まったばかりなのだ。



走行性能で勝るプロトスであるが、チーム編成が悪くオマハではどん尻となった


シカゴから次のチェックポイントのネブラスカ州のオマハまでは700キロという長旅である。
シカゴを後にしてしばらくイリノイ州を走った後、アイオワ州までくると、今まで晴れていたのが嘘のように天候は急変して大雨になってきた。
雪ではないので助かったと思ったのは束の間で、行く手には泥沼と化した道路が待っていた。

雪はシャベルで取り除くことができるが、泥に車輪を埋めてしまったクルマは、エンジンをふかすと車輪が空転するだけで、ますます深みにはまってしまう。
こうなると自力では脱出できないので、近くの住民を呼んで、馬と人手を借りて大勢で泥沼から引き揚げるのであるが、これを繰り返すのだから、いっこうに前に進めない。

昼間泥んこの道は、夜になると凍ってタイヤを切リ裂くような轍に変化する。
クルマにとっても人にとっても、凶器の上を走る悪戦苦闘の日々が続く中で、とうとうフランス車のモトプロクは泥沼からの脱出作業中に、走行部品を壊してしまいレースを断念せざるを得ない事態に陥り、シゼール・ノーダン車に続く2番目の脱落車となった。

毎日雨が続くわけではない。
そのうち雨もあがって待望の晴天がやってきた。
各チームは待ちわびたように洗車にとりかかった。
クルマにへばりついたドロが水で流されると、自分たちの疲れも取り去られたように思えて、元気がよみがえってくるのである。


3月2日、ミズーリ川を渡りネブラスカ州に入ると、そこは6回目のチェックポイントとなるオマハの町であった。
トップでここまでやってきたアメリカ代表のトーマスチームを、オマハの人々が待ち構えていて、一行を大々的に歓迎した。

この時点で、2番手を走るドディオンチームは100キロ後方を、3番手のツーストチームはその50キロ後方を走っていた。
どん尻のプロトスチームに至っては、シカゴで大がかりな修理をやっていて、既にトップを行くトーマスチームとは700キロという大差がついていた。


プロトスチームがこれだけ遅れたのは、クルマの性能が劣っていたわけではない。
むしろ、これまでの悪路では、トラックをベースとした〈プロトス/40HP〉の性能が勝っていたが、チーム内でごたごたが絶えなかったことが、遅れの最大要因となっていた。

このチームの問題点は、リーダーのケッペンにあった。
軍人出身で中尉の位に就いていたケッペンは、レースチームは軍隊組織であると信じきっていたので、どんなことでも上官命令として部下に伝えた。


Kaeppen,Lieutenant第二巻094話
〈何事も軍隊調のリュートナント・ケッペン〉





道に迷うと、ケッペンはアメリカ人のマークに行く先を聞いてこいと命令をする。
マークは畑で働いている人に、どの道が正しいのかを尋ねて、聞き出してくる。
それを運転手であるドイツ人のクナップに伝えようとするが、マークはドイツ語がしゃべれないので、自分の意思がうまく伝わらない。
クナップもマークの言っていることが充分理解できないまま走り出すので、コースミスが頻繁に発生する。

これをケッペン中尉が厳しくとがめることになる。
こういうことを繰り返すうちに、マークは反抗的な態度を取るようになっていた。
自分は軍人ではない。
金になる仕事だと思って、この大旅行についてきたが、こんな仲間とは一緒にやってられないと思うようになっていた。

よくよく考えてみれば、アメリカ国内を2カ月間も走行するというのに、ドイツ語と英語が共に堪能な人間を同乗させなかったということが、プロトスチームが混乱する最大要因であって、これに気がつかないケッペンはリーダーとしての資質に欠けていた。

(〔94話〕はここまでで、〔95話〕は来週の火曜日に掲載。)


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