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95話.ロッキー山脈越えの苦闘〔前編〕

《 主な登場人物 》
■リー・マシューソン:1885年頃の生まれ。トーマスチームに加わったアメリカ人青年。
■ジョージ・シュスター:1880年頃の生まれ。トーマスチームの新リーダー。


トップを行くトーマスチームは、許可証を取り付けて鉄道線路の枕木の上を走った


1908年の厳冬のニューヨークを出発して北アメリカ大陸を横断した後にアラスカの氷上を渡り、ユーラシア大陸に上陸してシベリア平原を走りぬけてパリまで走行する超々長距離自動車レースに参戦したチームは、ネブラスカ州のオマハを離れることになった。

トップを走るアメリカ合衆国代表のモンティ・ロバーツ率いるトーマスチームは、3月8日に、ワイオミング州のシャイアンに到着したが、ここまでの無理がたたってチェーンと歯車のかみ合わせが悪くなっていた。
この地で、本格的な修理が必要となったので、その仕事はメカニック役のジョージ・シュスターに任せて、他のメンバーは修理が終わるまで、しばしの休憩を取ることにした。

ここでチームメンバーの交代があった。シカゴで開催される自動車レースに出場するためにモンティ・ロバーツが、メンバーから外れることになったので、代わりにジョージ・シュスターが新しいリーダーに任命された。


Schuster,George第二巻095話
〈アメリカチームの新リーダー:ジョージ・シュスター〉





修理が終わったトーマスチームはサンフランシスコに向かって出発することになったが、ハンドルを握るのはE.R.トーマス社のデンバー地区販売代理店に勤めるリー・マシューソンという若者である。

最初は不安に思われたドライバー交代であったが、マシューソンは地元出身であり、この辺りの地理に精通している上に、降雪の季節にクルマでロッキー山脈越えをする困難さが痛いほどわかっているだけに、トーマスチームにとってはこの交代はプラスに働くことになった。


いよいよ新しいジョージ・シュスターを中心としたトーマスチームが動き出し、これからロッキー山脈超えだという時に、雪が降ってきた。
またたく間に景色は真っ白になっていった。
このままではとても山道は通れない。
何か解決方法がないかと思案したところ、何度も除雪が行われているユニオン・パシフィック鉄道の線路上に雪がないことに、マシューソンは気がついた。
そこで、鉄道線路の枕木の上を走ろうという、地元の人間ならではの妙案を思い付いたのである。

この案を実行するためには鉄道会社の許可が必要になるが、幸いにして鉄道会社にマシューソンの友人がいるとのことで、さっそく電報を打って協力要請をしたところ、友人が幹部に掛け合って通行許可を取ってくれると約束してくれた。

雪はどんどん降り続いていた。
時間の経過とともに線路にも積もり始めていた。
早くスタートしないと積もってしまうと焦りながら通行許可の電報が到着するのを待っていたトーマスチームに朗報が届いたのは、それから2時間後であった。

この知らせでは、次のチェックポイントがあるユタ州オグデンの50キロ手前のエバンストンまでの72キロの線路上を4時間だけ走ることができる許可証を入手することができたという。
4時間には、急行列車が通過する前に必ずクルマを線路から離すという意味が含まれていた。

こうしてトーマス・フライヤーは枕木の上をゴトゴトと前進することになった。
あまりの振動のひどさで右前輪のタイヤがやられてパンクした。
パンク修理をして、再びゴトゴトと進むが、スピードを上げることができない。
持ち時間の4時間は刻々と過ぎて行く。

速く走らなくてはとスピードを上げた瞬間、今度は後輪のタイヤがパンクした。
タイヤ交換に時間をとられているうちに、タイムリミットの4時間をオーバーしてしまい、メンバーの緊張が高まってきた。

なにやら後ろで音が聞こえるので振り返ってみると、はるか後方の山あいを列車が白煙を上げながら走っているのがわかった。
このまま線路内にいると列車に追突されて破壊されてしまう。
クルマを避難させなければと焦りながら前進させるが、このあたりは千尋の谷沿いで線路のスペースしか余裕がない。

後方の列車がどんどん近づいているのがわかるようになった。
早くこのクルマを線路から除けないと大変なことになる。
どこか空き地はないかと走り続けていたら、前方に資材置き場跡地が見えてきた。
ここならクルマを置くスペースがある。
すぐに移動しようとハンドルを切ったが、レールの段差が越えられない。
段差を埋めるものはないかと探すが、普段では何でもないことでも、後ろから迫りくる列車が気になって、作業が進まない。
列車の轟音がだんだん近くなる。
もう距離は500メートルもない。
早くやらなければと気ばかりが焦る。

ようやく車輪はレールを乗り越えることができたと思った瞬間、汗まみれのトーマスチームの横を、サンフランシスコ行きの急行列車が轟音と共に疾走していった。



ロッキー山脈最後の難関を鉄道トンネルで通過したトーマスチームは独走を続けた


これで助かったと一息ついたチームメンバーに、次なる難関が待ち受けていた。
とりあえず線路脇に避難したが、これから先は線路以外には道がない。
再度許可証をとるにも既に夜に入っていて、鉄道会社の執務時間はとうに過ぎているし、連絡も取りようがない。

困り果てたメンバーであるが、マシューソンはまたしても地元の人間しか生まれない知恵を出した。
この単線の線路を走る列車は1日に4本だという。
先ほどの列車の後は6時間後に今度はシャイアン方面への列車が通過する。
このまま線路上をオグデン方面に走っても、少なくとも4時間以内であれば列車に遭遇することは決してないとマシューソンが言った。
この事実がわかったメンバーは安心し、再び線路内に乗り入れることにした。

3度目となる再開で、線路上をゴトゴトと走り出して、しばらく行くと前方にトンネルが見えてきた。
既に夜半に入っていて辺りは真っ暗である。
暗闇の中でトンネルが不気味に、大きな口を開けて一行を待ち受けていた。

ここでもマシューソンの知識が役立った。
トンネルの長さが1.6キロに過ぎないことを知っていたのである。
それなら、時速16キロで走れば6分で通過できるはずである。
一行は勇気を振り絞って、暗黒のトンネルに突入することにした。
トンネル内部は照明が一切なく、地獄もかくありなんという暗さで、自分たちのゴトゴト走る音以外は何も聞こえなかった。

そこに突然、プシューと音がしたと思ったらクルマが動かなくなってしまった。
今度は左前輪がパンクした。
このまま走るわけにもいかないので、すぐに修理作業を始めることにしたが、暗闇でしかも無音のトンネル内での作業は、本当に頼りないものであった。

線路走行して以降3回目のパンク修理で、積んでいたスペアタイヤは全部使い切ってしまい、4本目のタイヤがパンクすることになったら万事窮すとなる。
修理を終えたクルマは、決してパンクしないようにと、ゆっくりゆっくり走行を進めた。
今か今かと出口を待ちわびている一行はやがてゆるやかな風の流れを感じるようになり、出口が近いことを実感することになった。
トーマス・フライヤーが、トンネルを抜けたのは、入り口に突入してから実に3時間半後のことであり、一行がエバンストンに着いたのは午前2時を回っていた。

積雪の峠道を通らずにすんだので、確かに時間はセーブできたかもしれなかったが、その分だけクルマの損傷はひどかった。
エバンストンで修理をしたかったが、ここには修理ができる設備がなかったので、次のチェックポイントとなっているオグデンまでは、だましだまし走らせるしか手がなかった。

トーマスチームは3月15日に、ユタ州オクデンにたどり着き、ここで本格的な修理をすることになった。
他のチームが今どこを走っているのかが気になったが、ここで入手できた情報は、自分たちがロッキー山脈超えに挑戦する前に知っていることと何ら変わらなかった。

(金曜日の〔95話:後編〕に続く)


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