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96話.サンフランシスコ到着〔前編〕

《 主な登場人物 》
■ケッペン:ドイツ軍方式のやり方の間違いにようやく気が付いたプロトス車のリーダー。
■ジョージ・シュスター:1880年頃の生まれ。西海岸で一番になったトーマス車リーダー。


トップになりたかったプロトスチームのケッペン中尉は突飛なアイデアを生み出した


1908年開催のニューヨーク~パリ間超々長距離自動車レースで、シカゴ経由で、イリノイ州とアイオワ州を通過し、そして6つ目のチェックポイントとなるネブラスカ州のオマハにトップで入ったのはトーマスチームであり、これを100キロ後方で必死に追っかけているのがド・ディオンチームであった。
その50キロ後方をツーストチームが走っていたが、プロトスチームに至っては乗務員のトラブルが後を絶たず700キロ後方でもたもたしていた。


プロトスチームのケッペン隊長は、これだけトップに離されて、ようやくチーム編成に間違いがあったことに気がついた。
そこで、アメリカ人のマークを解任する腹を決め、シカゴで英語が話せるドイツ系メカニックを新たに採用することにした。
それと同時に、自分の軍隊調の業務指示のあり方を反省して、単純な命令口調はしないように気をつけることにした。

このケッペンの決断は、大きなものを生み出した。
新しいメカニックが乗るようになってから、チーム員同士のトラブルは皆無となり、コミュニケーションはスムースに運び、コースミスは絶滅した。
この結果、トラックをベースとするプロトスが本来持っている性能がフルに発揮されるようになり、ツーストチームを激しく追い上げ、シャイアンに到着した時点で、3位との距離差は200キロ近くまで短くなってきた。

これからいよいよロッキー山脈の峠越えである。
北アメリカ大陸の最後の山場に来たことを強く認識したケッペン隊長は、この難所をどのようにして越えるかに智恵を絞るつもりで、シャイアンの町で道路事情に詳しい人の意見を聞くことにした。
既に先行している3台のうち、トップを行くトーマスチームは2週間前に鉄道線路の枕木上を走行して出発したという。
2位のド・ディオンチームは8日前に、3位のツーストチームは3日前に、通常の道路走行で峠越えに向かったという。
トーマスチームがオグデンに到着したとの知らせは、既に当地に届いていたが、後の2台は無事にオグデンに到着したかどうかの連絡はまだ来ていないという。

ここは勝負時だと判断したケッペンは、思いもつかないことを考えた。
それは、自動車を鉄道貨車に載せて運ぶというアイデアであるが、ルール違反であることをケッペンは知っていた。
場合によったら、失格になるかもしれないと思った。
それはわかっていたが、何が何でも祖国のドイツに入る時にはトップでいたい。
そのためには、リスクがあることはわかっているが、これしか手段がないと思い込むようになり、直ぐに鉄道会社に話をつけて、シャイアン駅から連結した貨車にクルマと人を乗せたのである。

いちばん簡単なロッキー山脈越えを実行に移したプロトスチームがオグデンに到着したのは、3位のツーストチームは当然として、2位のド・ディオンチームより早かった。

オグデンに到着したプロトスチームのケッペン隊長は、前を走るトーマスチームを追い抜くことに自信を持つようになっていた。
そのためには、クルマの整備と修理が重要であるので、ユニオン・パシフィック鉄道の工場を利用させてもらい、車両を徹底的に点検して、問題がある所は完全に修復することにした。



2位を必死に追い上げる3位のツーストは、暴走し氷が張った貯水池に突っ込んだ


96話イタリア代表ツースト1908
←イタリア代表のツースト車







トーマスチームとド・ディオンチームに続く3位でシャイアンを出発し、雪のロッキー山脈峠越えに挑戦することになったツーストチームは、2位のド・ディオンチームを追い抜くつもりで、無理な走行を続けているうちに、近道のつもりで通った道がずれて、運悪く凍結している貯水池の氷上に乗り上げてしまった。
ここから早く脱出しなければと焦ってアクセルを吹かしたら、車輪はすべるばかりで前進せず、氷上を回転しながら、日当たりが良くて氷が薄い所に行ってしまった。

危ないと思った瞬間、クルマの下の氷にひびが入った。
急いで動かそうとしたが自由に動かないので、乗員がクルマから飛び出した直後にバリバリと大きな音がして氷が割れて、クルマは冷たい水の中に沈没してしまった。
水深は1メートル位なので、完全水没は免れたがツーストチームにとっては一大事の発生となった。
チームメンバーは一体となって引き揚げようと努めたが、泥にはまってしまったクルマはびくとも動かなかった。

こうなったら、頭数が必要になる。この辺で頭数が揃うのは、ユニオン・パシフィック鉄道だけとのことで、鉄道会社に救援を依頼したら、なんと鉄道作業員が75人も集まってくれ、力を合わせてクルマを貯水池から引き揚げてくれた。

この後は、水にぬれた自動車部品をていねいに清掃して、完全に乾くまで待つことになった。
これで時間を取られ、2位のド・ディオンチームを追い抜くつもりであったのが当て外れとなった。

この後、ツーストチームはサンフランシスコまでの完走を決して諦めることなく、ロッキー山脈の峠越えの山道を上ることになったが、雪道に足を取られ、遅々として進まない難行苦行の前進が続いた。

ついに峠の頂上にたどり着いたが、ここからは下りとなり、ちょっと油断すると雪の上を車輪が滑って、そのまま谷底に墜落する危険と直面し、死と隣り合わせになりながら少しずつ前に進んだ。

夜になると走れないので、野営をすることになるが、エンジンを止めるとクルマも人も凍り付いてしまうので、一晩中エンジン音だけが山間ににぶく響いた。

朝日が上り、道路上の氷が太陽のエネルギーによって柔らかくなるまで待たなくてはならなかった。
太陽が輝く日は前進できるが、雲が出て太陽がさえぎられると、その場所に止まらざるを得なくなる。
このような時間が経過すると、あれだけたくさん積んできたつもりのガソリン在庫がだんだん減ってきた。
半分以下になると不安が頭をもたげてきて、70%を消費してしまうと、さらに心配が加算された。
このまま曇り日が続くと、やばいことになるかもしれないと考えた時に、晴天になって順調な走行ができるようになってきた。

ツーストチームが峠を下りきって、オグデンにたどり着いた時には、ガソリンは8リッターしか残っていなかった。

トーマスチームがオグデンに到着したのは3月15日であった。
鉄道貨車に自動車を載せて最短時間で峠越えをしたプロトスチームは、トーマスチームに3日遅れでオグデンに到着したが、この事実はすぐに新聞で報道され、たちまち非難の渦が巻き起こった。

(金曜日の〔96話:後編〕に続く)


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